第2報 5核兵器国、核兵器禁止条約への反発を一層あらわに(2017年5月5日)

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5月2日から5日にかけ、一般討論とそれに続くクラスター1(核軍縮)の議論が行われ、5つの核兵器国(P5)がそれぞれ発言の機会を持った。とりわけ注目されたのはトランプ新政権誕生後初のNPT準備会合出席となる米政府代表の発言であった。核軍縮に対する基本姿勢、とりわけ核兵器禁止のアプローチに対する考え方はどのように語られたのだろうか。

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ロバート・ウッド米軍縮大使の読み上げた2つのステートメント(5月2日の一般討論5月5日のクラスター1)に核軍縮への意欲は盛り込まれなかった。意欲どころか、自国の核軍縮努力に関する自賛の文脈を除いては、NPTで合意された核軍縮義務や、過去の演説が繰り返してきたステップ・バイ・ステップの核軍縮アプローチに対する言及さえなかった。5年まえのウィーン、すなわち2015年に向けた第一回準備会合での米代表の演説が、2009年のプラハ演説を引用し、「核軍縮を追求することで、核兵器なき世界に向けた具体的な措置をとるという米国の特別の責任」を強調したことを思えば隔世の感がある。

演説の内容の大半を占めていたのは、現在の安全保障環境に対する強い危機感と、核戦力を増強し、挑発的行為を行っていると米国が見なす国々に対する厳しい批判であった。イラン、ロシア、中国も具体的に名指しされた。

中でも、演説が最も長い時間を割いたのは、北朝鮮の核・ミサイル開発であった。演説は「(北朝鮮の)計画を止めようした過去20年間の善意の外交努力は失敗だった」との認識のもと、「北朝鮮がソウルや東京を攻撃するという脅威は現実のものであり、米国本土を攻撃する能力を北朝鮮が持つことも時間の問題」と厳しい現状認識を示した。

しかしそうした厳しい内容の一方で、注目された一言があった。それは「(米国の狙いは)北朝鮮の体制変化を求めるものではない」という、短いながら明快なメッセージであった。トランプ政権は、北朝鮮の挑発に対して、軍事行動も辞さないとの声明をだしており、強硬路線を推し進める反面、「体制変化を求めない」という重要なメッセージを今回の発言に組み入れたことは注目に値する。関連して、演説は「新しいアプローチが必要である」と述べている。これがどのようなものになるか予断は許さないが、いずれにしても「北朝鮮の核の脅威をいかに弱めることができるか、それが今回の準備会合における我々の中心議題になるべきだ」と不拡散問題に議論を集中させたい意向が示された(引用リンク)。

米国の主張を一言で言えば、核軍縮の「前提」となる各国間の緊張緩和や信頼確保が困難な状況ではさらなる核軍縮どころではない、ということになるだろう。演説はトランプ政権が進めている核態勢の見直しにも言及した。中身はこれから、としつつも、「一つ言えることは、核抑止が平和を守り、安定を維持する上での中心的な役割を今後も担うことだ」と述べ、核兵器が引き続き米国の安全保障政策の根幹に据えられるとの認識を示した。

そうした認識の当然の帰結と言えるが、核兵器禁止条約については、「役に立たず、非生産的で、一時的な目くらまし」「一つの削減にもつながらないし、いかなる国の安全保障も強化しない」「世界をより危険で不安定な場所にする」「NPT締約国の中に埋められない分断を生む」「(欧州や東アジアにおいて)米国との同盟関係を損なわせる」といった批判が繰り返された。NPTのようなコンセンサス(全会一致の合意)に基づかない、というのは他の核兵器国も含め、今回もっともよく聞かれた禁止条約批判の論点である。米国は、核兵器禁止を促進する国々が「50年にわたるコンセンサスに基づくアプローチを放棄」していると指摘した。

地域や国際の平和と安全に対する懸念がますます高まる中、そうした懸念を考慮しない核兵器禁止条約は締約国の分断を生むことでNPT体制に危機をもたらす、したがって核軍縮の前進どころか後退にしかならない、というロジックの展開は他の核兵器国の演説にも共通していた。ロシアやフランスは、米国同様、あるいはより厳しいトーンで禁止条約を作ることの弊害を訴えた。ロシアは、条約交渉が「相互尊重による対話」や「NPTの枠組みのようなコンセンサスルール」に基づかないものであり、よってNPTの「一体性」「有効性」を危険にさらす「間違った道」であると言い、フランスは同様の理屈で「近道は存在しない」「核軍縮の前進どころかさらなる不満を生む」と断言した。英国、中国からもコンセンサスルールによる「ステップ・バイ・ステップ」アプローチへの支持が繰り返された。

このような点について、禁止条約推進の国々からはどのような反論が出ているのだろうか。次回以降のブログで紹介していきたい。

 

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